古琴の名曲『流水』が伝える知音物語

孔明先生に私淑して、古琴を始めた玄子(げんし)です。

古琴には沢山の名曲がありますが、今回ご紹介するのは流水

知音って言葉の原典にもなった曲です。

私は曲の技巧とか、表現方法よりも曲の背景に興味があるので
知音物語をお伝えしたいなと思います。

あくまでも、楽しみながら時空を越えて欲しいので、
中国の小説をベースにお届けします。

虚実議論は受付ませんので予めご了承ください。

知音物語

時代は紀元前440年前後の中国が舞台のお話です。

伝説になった机上の戦

楚の国が、宋の国へ攻めようと、虎視眈々と準備を進めていました。

一方、宋の国にいながら、その情報をいち早くキャッチした

一人の男は、単身、楚国の城へ乗り込むと

国王に面会し、宋への攻撃予定を白紙に戻すよう懇願しました。

 

でも、案の定、国王の心は変わらず

「こっちには、主君のワシが言うのも

手前味噌でなんだけどさぁ、

伝説の大工(って後世で絶対に言われる男)が

開発した新兵器、

雲梯(うんてい:城を攻める時に使うハシゴ)が

あるから、勝利確実なんだよね〜」

 

と勝算ありすぎるんで計画を取りやめる気は更々ないと言うと

宋の国から来た男は楚が宋を攻めることへの非をコンコンと説きました。

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「さすがは噂以上の・・・伝説の非戦主義者だ滝汗

国王は、このままでは議論で太刀打ち出来ないと察すると

伝説になることが約束されている大工を呼びました。

 

「今から、この伝説の大工

魯班と机上で模擬戦を行ってもらい、

万が一、先生が魯班の攻撃を防ぎきることが出来たら

宋へ攻める計画は中止にするってどう?」

ということで、戦をするか、しないかをかけて

伝説の大工・魯班と

宋から単身乗り込んだ非戦主義者ー

画像は中国のサイトより拝借しました

墨子による伝説の戦いが始まったのでした!!!

墨子救宋

伝説の大工・魯班と机上の戦をした墨子。

詳細に興味のある人は自力でどうぞ♪照れ

 

結果はー

墨子の圧倒的な勝利に終わりましたキラキラ

 

が!魯班はそれでも認めず

「お、奥の手があるから大丈夫です!」と

楚王に進言しましたが

 

「奥の手って、今ここで私を暗殺することだよね?」と

墨子に見破られ、

 

 

さらには

 

「私の弟子に秘策を授けてきたから

仮にここで私があなたの手にかかっても

宋は絶対に勝ちます!!!」

微々たる隙さえも与えませんでした。

 

 

この流れを苦々しく見守っていた国王は

「約束は、約束じゃ。

宋へ攻め込むのは取りやめる!!!」

宋攻めを中止にしました!!!

 

こうして一滴も血を流さず宋の国を守った墨子は

客舎へ案内されるとやっと、戦地から生還できたような心地になれました。

 

そんな彼の耳に、

どこからともなく聞こえてくる琴の音色が届きました。

見破られた墨子

「客舎で音楽を奏でるとは珍しい、、、」

墨子は琴が演奏されている部屋の前まで来ると

気付かれないよう息を潜めながら

戦帰りの疲れを癒やしていましたが

 

「!?」

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突然、琴の音色がやむと

おもむろに開けられた扉の向こうから

一人の男が出て来てくるなり、

 

「血生臭い、、、

あまりの血なまぐささに、

琴の弦が反応してしまいました。

戦から帰られたばかりですか?」

 

( ̄□ ̄;)この人が魯班じゃなくて良かったあせる

魯班と対面した時には

感じなかった緊張感が

背中に流れる冷や汗と共に

墨子の思考回路を凍て付かせました。

馬が聴きたいのは念仏じゃなかった!?

この男の正体はー

戦場帰りの血なまぐささって

言われても、机上の戦だったのに

なんて恐ろしい!!!

一体、どこの誰!?と

墨子が思ったことも伝わったようで

 

「某は晋の上大夫、伯牙にござる」

※伯牙殿の画像は中国のサイトより拝借したでござる

 

ぉお〜∑ヾ( ̄0 ̄;ノ琴の名手、伯牙殿でしたか!!!

:伯牙殿が演奏すれば

念仏を唱えても何の反応もしない

馬や牛さえも草を食べるのをやめて

その音色に聞き入るとか、、、

 

彼らにも聴きたいものを選ぶ権利はありますからな。

:誰でも一度は聴いてみたいと願う伯牙殿の演奏。

楚王に招かれた理由もそんな感じですか?

:その通りです!

元々私は楚の人間なので、

琴を介して晋と楚の友好に貢献出来ればと思ったのですが、、、

 

残念ながら私の琴は人間の耳には、なかなか届かず

理解されないようで、、、。

楚王に頼まれて演奏したのですが

「女官の舞には遠く及ばぬ」と一蹴されてしまい申した。

:(; ・`д・´) ナ、ナンダッテー!!

戦のことで一杯いっぱいの楚王の耳には

伯牙殿の高尚な音色は

聞き取れなかったのかもしれませぬね。

 

伯牙と墨子は意気投合しそうな雰囲気でしたが

墨子が自己紹介をすると

「墨翟(ぼくてき)?

『非楽』を主張される

音楽の敵、墨子先生でしたか、、、」

伯牙の表情は瞬時にして硬くなり

 

「なぜに、音楽を非難されるのですか?」

あっという間に敵視されてしまいました。

 

( ̄Д ̄;;それ、言うの?

天下にその名を轟かせている琴師の前で

それ、言わなきゃダメですか?

非楽とNO MUSIC,NO LIFE

墨子は伯牙に詰問され

硬い声で非楽を主張する理由を述べました。

「民衆が苦しんでいる時に音楽を奏でることで

人々の声を遮り、行き場を失った声が

悲しみの音を奏でても領主は聞く耳を持たない。

 

また、一度楽器が演奏されれば

人々は田畑を耕す手を休め、

機を織るのを忘れ

政務を執るのを忘れて聞き入ってしまう

何の利益も生まない不合理なものです。

だからこそ、私は非楽を説いているのですがー」

墨子は、冷や汗と脂汗を同時に流しながら

魯班との戦いは、

自分自身を試す前哨戦だったとさえ感じていました。

 

、、、( ̄^ ̄)し〜ん、、、

伯牙は暫し黙った後

「墨子先生は音楽の本質を知らなすぎる!

人は心にも豊かさがなければ生きてゆけませぬ!」

 

伯牙は「非楽」を主張する墨子とは対照的に

NO MUSIC,NO LIFE!!!だったので

 

琴のこれまでの歴史や

それぞれの弦がもつ意味、

音楽が人の心に与える影響力など

熱く熱く語ると

 

墨子は「伯牙殿は別です!別格です!

伯牙殿の奏でる高尚な音色は

聴く者の心を癒やしてくれます」

正直な感想を述べましたが

 

暗くて表情まで解らないけど、

伯牙の放つ不機嫌な空気が、、、重いあせる

 

「非楽が正しいかどうか、

私にはよく分かりませんが

墨子先生も琴を弾かれては如何か?」

あ〜、かなり怒ってる滝汗

 

「それでは失礼致す」

伯牙は恭しく挨拶をすると、

琴を背負って、どこかに行ってしまいました。

 

「伯牙殿は、まさに琴仙、、、」

 

楚王と魯班相手に勝利を収めた墨子さえも

感服させた伯牙は、、、どこへ行く!?

 

知音は突然やって来る!

 

「今日は中秋節だというのに、何てついていない日だ!」

伯牙は琴を背負ったまま城を出ると

 

「豪華な客舎よりも

ここにいる方がずっと、居心地がいい」

伯牙は月が見える小高い丘に登ると

楚王と墨子に疲れた心を

自らの琴で癒やすことにしましたが

 

これと言って弾きたい曲が浮かばなかったので

俗世間の煩わしさから解放されたかった伯牙は

仙人になって山を浮遊しているような気分になれる

曲を即興で演奏しました。

 

 

「嗚呼、なんと神々しい高山の景色だろうか」

突然、伯牙の視界と、

琴の世界に見知らぬ男が入ってきました。

「・・・この男が?、、、

まさか、、、気のせいだろう」

伯牙は戸惑いながらも今度は

流水の風景を即興で奏でると

「嗚呼、なんと麗しい、、、

飛沫さえも繊細な、

それでいて荘厳だる川の流れ、、、」

やっぱり、伯牙の耳と世界に入り込んでくるのです。

 

ここまで来ると、さすがに

「ただ者じゃない」と認めた伯牙。

 

ちなみに、この時に演奏された曲がこの

流水だったのです。

↑玄子の古琴の師匠・曾先生の演奏による流水↑

 

いつもは極力、人と関わらないようにしている伯牙ですが

生涯で唯一、この時だけ、心の扉が開かれました。

 

「私は伯牙という通りすがりの琴弾きですがー」

演奏を終えた伯牙が名乗ると

それまで、うっとりと演奏に酔いしれていた男は

 

「私は子期、鍾子期と申します」

 

中秋の月が引き合わせてくれた

伯牙と子期。

その後も、伯牙が琴を奏でると

子期は、その心を一音も逃すことなく

理解してくれました。

 

子期、君こそ、我が知音

(ちいん:自分のことを理解してくれる親友)だ!!」

 

こうして、高山流水という琴の名曲と

知音という名言を生んだ伯牙と子期の友情。

 

ここから二人の知音物語は

数々の名曲を後世に遺してくれると

思われたのですがー

ガーン幸せは長くは続かなかったのです!!!

 

知音がある日突然、「浦島太郎」になったら!?

 

やっと、知音と呼べる

最高の理解者を得た伯牙でしたが

琴師以外にも晋の上大夫って肩書きもあり

翌朝には楚を出て、

晋に帰らなければなりませんでした。

 

月が宴を終えるまでの僅かな限られた時間に

これまでの日々を埋めるかのように

琴を奏でる伯牙と、その音を知る子期。

夜が明けると、2年後の中秋節に再会を約束し、
それぞれの日常に戻っていきましたが

子期と再会する日を生きる希望にした
伯牙は以前にも増して琴の腕に磨きをかけました。

 

もともと才能のある人が
本気を出して鍛練を積むと、
才能の開花と情熱は誰にも止められません。

伯牙の右にも左にも前にも後ろにも並べる人は

いないレベルまで名実ともに琴仙になった伯牙。

そして、待ちに待った、2年後の中秋節ー

伯牙は琴と月餅を持って

子期と出会ったあの丘へ向かいました。

 

、、、が!

いくら待っても、どんなに琴を奏でても

子期は現れません。

 

「もう、夜が明ける、、、

子期。知音を得たと喜んだのは

私だけだったのか?」

伯牙が一抹の虚しさを感じ始めた時でした。

 

「伯牙殿、、、ですか?」

一人の翁が杖をつきながら

伯牙の前に現れました。

 

「ぇえっ∑ヾ( ̄0 ̄;ノ!?翁??」

 

まさか、子期は浦島太郎だった!?

そんな馬鹿な!?

 

この翁は玉手箱を開けた子期なのか?

それとも!?

子期に一体何が???

永遠に続く玉響(たまゆら)の時

 

「あ、あなたはまさか、、、子期!?です、、、か?」

伯牙が恐る恐る翁に尋ねると

「私は子期の父親です」

嗚呼、良かった(^▽^;)と安心した伯牙を

「子期が待っているので、一緒に来て頂けますか?」

子期の父上は子期の待つ場所へ伯牙を案内しました。

道中、伯牙は

「きっと、用事があって来られず

今帰ってきたのだろう。

会えるなら、子期が私の琴を聴いてくれるなら

それだけで、いい」

子期に裏切られてはいなかった現実を歓迎し、

やっと会える!!と胸を躍らせましたが、

 

「ここです」

父上に案内された伯牙が目にした現実は

受け入れ難いものでした。

 

これが、その現実ー

子期の、、、、、、墓?

「子期は、、、流行病にかかって、、、

最後の最期までずっと

伯牙殿に会いたがっていました。

約束を守れず申し訳ない、、、と」

 

伯牙は何が起きているのか解らず

こみ上げてくる悲しみに向かい合うことも出来ず

ただ、一心不乱に琴を弾きました。

 

子期、、、子期、、、、、

唯一無二の知音がいなくなった今、

琴を弾くことなど、出来ない。

弾いたところで何の意味があろうか?

 

琴を弾き終えた伯牙は

「さらばだ!!!」

 

自らの理解者を失った伯牙は

子期の後をその場で追うことよりも

更に辛く酷な道を選びました。

 

「伯牙殿!何を!?」

子期の代わりに父上が慌てて止めようとしましたが

伯牙は慟哭しながら愛琴の弦を裂き、

琴そのものをも、破壊して

もう二度と琴を弾かないことを子期に誓いました。

 

その琴が納められているのがこちら↓

 

 

琴仙と呼ばれた伯牙がここまでしたからこそ、

知音である子期との友情が

後世にまで伝えられているのは

伯牙が意図したことなのか解りませんが

 

知音と呼べる子期と出会わなければ

伯牙は琴師として

歴史にもっと多くの名曲と影響力を

遺していたかもしれません。

 

それでも、伯牙にとっては、

たとえ刹那の間であっても

知音と呼べる子期と出会えて

幸せだったのは紛れもない事実。

伯牙と子期が過ごした時間は

長い中国の歴史の中では

気付かない人さえ多い玉響(たまゆら)の時。

 

それでも伯牙があの日、あの時

この世に生み出した【流水】は

川の流れのように、

形を変えながらもそれでも

今でもしっかりと受け継がれているのです。

 

そんな伯牙と子期の友情に想いを馳せながら最後にもう一度

お聴きください。

伯牙作曲*流水